皆さんごきげんよう。駆け出しボカロPのIWOLIです。
今回はこれまで紹介したリズムとも違った、
更に踏み込んだ特殊なリズムについて解説します。
特殊と言っても、結構耳にする事のあるモノだと思いますし、
使いこなせれば物凄くオシャレ~な曲になりますので、
参考曲も聴きつつ取り入れてくださいね!
Contents
スイングしたリズムって何?
今回のテーマは「スイング」。英語で”Swing”「揺れる・振る」という意味です。
リズムを揺らすとはどういうことか?
これは説明するより実際に聴いてみた方が早いと思います。
こちらを聴き比べてみてください。
変化しているのは16分音符で連打するハイハットのみです。
スイングしていない時
スイングしている時
なんか変わった感じがしませんか?実はよ~く見てみると、

この通り、スイングしている方は
偶数回目のハイハットの位置が後ろにズレているんです!
このズレが生み出す独特なリズムの揺らぎこそがスイング!
8分、16分、32分といった等分のリズムでは生み出せない、
ちょっと捻った大人びたリズムが特徴です!
特にジャズなどではこれが大前提と言えるほど重要なリズムですね。
この話を受けて今度は、じゃあスイングという概念に対し、
それをしていないリズムの呼称はあるか?という疑問を抱くかもしれません。
これについては主に「イーブン」とか「ストレート」という言葉が用いられます。
イーブンなら、リズムを均等に割るということ。
ストレートなら、揺れることなく真っ直ぐリズムを刻むということ。
なるほどですね!
スイングの幅と三連符
さて、この等分から少しずれたスイングというリズムですが、
スイングでリズムをどれだけ等分からズラすかというのは、
「必ずこれだけ」というのはなく、曲によって自由に決められます。

なので例えばStudio Oneではこのように、
「8分音符を〇〇%ズラす」
「16分音符を〇〇%ズラす」
といった形でスイングの幅を選択できるようになっています。

Reaperの場合はこんな感じでバーがあり、より細かく調節したり、
マイナスにして逆方向に動かすことも出来ますね。
ですがこうなってくると、イーブンではないもう一つのリズム、
三連符を思い出しませんか?
以前解説した三連符も、3等分という意味の他に、
「2等分から少しずれた」と解釈する事も出来るでしょう。
ではこれらはどう違うのか?
結論を言ってしまうと、たまに一致します。
特にStudio Oneだとこれは簡単に一致します。
さっきお見せしたのは”1/16 60% sw”でしたが、
これを”1/16 100% sw”にします。

そしてここでグリッドを、三連符に変えてみましょう。

少し見づらいですが、グリッドの縦線が、偶数回目のハイハットに一致します。
DAWの設定次第ですが、Studio Oneでは100%のスイングが、
完全に三連符になるようです。
100%スイング
三連符
こうなると「どっちが正解なの?」という疑問が湧きますは、
僕の結論は、「作曲者が勝手に決めて良い」です。
何なら、生演奏ではその場の判断に関わるため確かに重要ではありますが、
DTMの機械演奏なら最終的な出力が同じになる限りどっちでも良いとすら思いますね。
感覚的には、
- 3連続でのリズムを強調する:三連符
- 偶数回目のズレを強調する:スイング
というのを基準に解釈しても良いと思います。
この後幾つか紹介する曲には、まさにこの、
スイングっぽいけど位置的には三連符と完全に一致する曲も含まれますが、
概ね「偶数回目の強調」という特徴が共通したため、スイングとして紹介します。
スイングしている曲を聴いてみよう!
という事で今回は出血大サービス!(?)
色んな「スイングしているボカロ・J-POP」を大量に聴いてみましょう!
まずはやっぱこちら!
ヒアソビ
かめりあ – ヒアソビ (feat. 初音ミク) 【Electroswing】
ヒアソビ、ボカロのジャンルでも紹介した、ボカロElectroSwingの代表格ですね。
当然ながらジャンル名に「スイング」と入っている通り、
曲の大部分でスイングリズムが続きます。
以下のジャンル解説記事でも幾つか挙げていますのでよかったら是非!
酔いどれ知らず
2曲目はKanariaさんの大人気曲、酔いどれ知らず。
分かりやすいのがサビの「はられあられ」の部分。
「(は)ら~れあ~られ」という感じに、「られあら」の4文字が、
イーブンではなく後ろにずれ込んでいます。
(「は」は前の拍「泥泥」に対してスイングしている)
ダウナーなテンションに、ヨタヨタっと揺れたリズムが曲のテーマにマッチしていますね。
(いや酔ってんじゃねぇか?)
次は懐かしい曲から。
1925
【初音ミク】1925【オリジナル曲】
こちらの1925は同じスイングでもなんだかゆったりした揺らぎがありますね。
このゆったり感の秘訣は主に二つ!(だと思います)
- 8分音符のスイング
- 実質的な三連符
この歌のAメロをかる~く耳コピしたのでそちらをお聴きいただきつつ解説します。
8分音符のスイング
まず一つ目ですが、この曲はBPMこそ前の2曲よりちょっと速め(145)なものの、
スイングさせるのがこれまでの16分ではなく、8分音符の偶数です。
上の設定で”1/8 100% sw”となっていますが、これでグリッドが一致していますね。

逆に今までの様な16分だとこのようにグリッドとあいません。
実質的な三連符
そして、この設定で察しのいい方は既にお気づきかもしれません。
「Studio Oneで100%のスイング」という事は…
そうです。実質的には三連符のリズムになっています。
なのでグリッドを三連符にして合わせても…
この通り、何も変わらず合ってくれます。
これがもしちょっと違うスイングだと、結構グルーヴが変わってしまいます。
個人的に40%くらいまでイーブンに近づけると明確に感じますね。
ほら、ノリ感が全然違うでしょう?
ビビデバ
お次は少しボカロから離れ、ホロライブで驚異的な伸びを記録したこれ!
このビビデバは三連符でもなく、先述のElectroSwing系の様なスイングです。
終止すっごいお洒落なリズムですよね。
「リズムが陽キャで歌えない」と評されるのも納得というか…(ワードチョイスが絶妙)
ヨワネハキ
雰囲気は一気に変わりますが、こちらのヨワネハキもスイングですね。
スイングはこういった大人しい感じにも結構合います。
からくりピエロ
またボカロに戻って最後はこちら!
ボカロが生まれ、流行り出した頃の名曲2、からくりピエロ。
ヨワネハキから更にテンポが落ちただけでなく、長い音符が更に増えたことで、
よりダウナーで憂鬱な雰囲気になっています。
ビビデバ、ヒアソビの様にテンポが120以上あるとその細かさから、
ノリの良さや洒落た大人という印象になりやすいですが、
逆に酔いどれ知らず、ヨワネハキ、からくりピエロの様に120未満になると、
ダウナーでメランコリー、或いはユラユラした印象が強くなると思います。
逆に、実はスイングしてない曲
ついでに、今度は逆。スイングしていない曲についても紹介します。
スイングは結構細かく繊細なリズムのズレから生まれる事もあり、
意外と「スイングしているか否か」の判断は難しいのではないかと思っています。
なので次は、「勘違いしそうだけど実はイーブンな曲」を紹介します。
2024年、一世を風靡したDECO*27さんのモニタリングは、聴いた感じスイングは一切しておらず、
16分音符の裏(シンコペーション)で複雑なリズムを作っているようです。
メロディがDECO*27さんらしい16分の応酬なので、スイングさせると複雑になり過ぎるのかもしれませんね。
この後に続く歌はこのように、「スイングに聴こえる気もするけど、実はただの16分裏」というのが多いです。
お次はちょっと懐かしいカゲプロの夜咄ディセイブ。
こちらも「タカッタタカッタ」というリズムが目立ちますが、
恐らく同様に16分裏ですね。
特にサビのラスト、「徒然、嘲笑う」の部分は16分9連打なので、
ここが等間隔に「ダカダカダカダカダン」というリズムになっているのが分かりやすいと思います。
お次のこちらは誤解している人も少なくないのかもしれません。香椎モイミさんのキャットラビングです。
原因として、しばしば”ElectroSwing”のリストに入れられているのを目にするからです。
ですが、ボーカル、ドラム、その他のピアノなどを聴いても強調されているのは兎に角8分音符の裏。
これまでのような16分裏すらない、とても直球なリズムをしていてスイング要素は皆無です。
何故これがElectroSwingに入れられることがあるのか?僕の考察では、
曲調の大人びた感じがElectroSwingを想起させたのかもしれません。
電子音楽にジャズを加えて生まれたElectroSwingっぽくはないと思っています…
ジャンル警察がしたいわけじゃないけど、混乱を招かないか今から心配…
鏡音レンオリジナル曲 「右肩の蝶」
お次はよりややこしいかもしれません。リンレンにとってかなり初期の名曲、右肩の蝶です。
ジャジーで凄くオシャレな雰囲気なのでついスイングかと思ってしまいそうになりますが、
この曲が主体としているのは「付点8分音符」の「タータータタータータ」のリズムであって、
こちらもスイングはしていないでしょう。
またこちらが生まれた約15年後に生まれたこちらのカバー、
右肩の蝶 Cover / めいちゃん
かっこ良過ぎるやろ…
めいちゃんさんによる歌ってみたですが、がっつりアレンジがあるもののこちらも、
少なくともボーカルのリズムに限ってはスイングはしていないでしょう。
【239】[feat. 花譜, ツミキ] トウキョウ・シャンディ・ランデヴ / MAISONdes
一旦ボカロから離れてみましょう。
16分裏と付点8分の合わせ技で攻めるのがこちら、トウキョウ・シャンディ・ランデヴ。
お洒落なリズムですがあくまで16分裏に入る事が多いだけでこちらも常時ストレートですね。
さて、ここからはちょっと趣向変わりまして遅めの曲から紹介します。
今や日本で知らぬ人は居ない、米津玄師さんがボカロP「ハチ」として活動していた時代の楽曲、「clock lock works」です。
有名曲ばかり聴いているとアップテンポなイメージがありますが、
こちらのBPMはおよそ93、(93.5かも)
中々に低速な中でリズムに捻りや引っ掛ける様な音があるのでスイングと誤解してしまいそうですが、
こちらも引っ掛ける音は常に16分裏なんですねぇ…
トエト (feat. 巡音ルカ)
この上なく耳コピが楽なほのぼのソング、トエトです。
こちらは更に低速でBPM=80。楽器構成もあってとてものどかですよね。
こののどかさに、さっき同様の引っ掛け感がありますが、
こちらも調べてみると同様に16分音符の裏だったようです。
友成空(TOMONARI SORA) – “鬼ノ宴” [Lyric Video]
最後に紹介するのはJ-POPから、鬼ノ宴です。
曲調やテーマから酔いどれ知らずに近いものを感じるのは僕だけでしょうか…
そのため僕も「スイングなのかな?どうかな?」と調べるまでは判断に迷う所でした。(というか今回紹介した物全部そうです)
ただこちらは、低速で揺らぎがあるリズムでありながら、
トエトやclock lock works同様にあくまで16分音符の裏の様でした。
かなり低速な印象を与えるリズムなので、「BPM=65」であって、
32分音符の裏に配置されているのかもしれません。真相は作曲者のみぞ知る…
まとめ
ドバーッと大量に紹介してきました、お疲れ様でした。
スイングはかなり大人びた雰囲気な一方でやはりややこしい所も大きいですが、
これを上手く活かせれば作曲でもカバーなどの二次創作でも、
表現力がバク上がりすること間違いなし!
分かりにくい時はテンポを少し落として、スイングのズレを広げてみると分かりやすくなると思いますので、活用してみてくださいね!
それでは、オヤカマッサン~