皆さんごきげんよう、駆け出しボカロPのIWOLIです。
今回から、先日公開したフリーBGM、
「Azure Expressway」がどのようにして制作されたか解説していきます。
今回は第0回と言う事で始めるより更に前。
- なぜこの曲を作ったか?
- 作る目的は何か?
と言ったことをお話しします。
この記事で分かる事
・作曲を始める第一歩が分かる
・作曲に対する考え方の1つを知る
・作曲のレパートリーを増やす思考法を知る
抽象的で地味かつ意識しづらい部分の話になってきますが、
自分の方針の振り返りや新たなアプローチの取り方のヒントになるかと思います。
是非参考にしてくださいね!
Contents
概要 / 初のFree BGMはDNBでした
本題の前に、まずは基本情報から確認していきましょう。
曲のテンポやキー、ジャンル、テーマなどです。
| ジャンル | Drum’n’Bass(ドラムンベース) |
| BPM | 174 |
| キー | Cメジャー |
| 目指したテーマ/雰囲気 | 疾走感・爽快感 |
とても標準的で、よく言えば王道ですが、
悪く言えば没個性な曲と言えるかもしれません。典型的で普通なDNBを目指しました。
特徴の少ない、僕にとっては今までにないタイプの曲だと思っていますが、
これは狙って敢えて個性を減らしています。
何故このようなことをしたのか?
いよいよここから、制作の意図を深掘りしていきます。
最初の一手:作る目的は何か?
この曲を作り始める前、
まず最初に考えたのは何故この曲を作るのかという問いへの答えです。
「テーマから作れ」という考え方に似ていますね。
ですが今回の場合、最初の手順で決めたのは必ずしもこの記事で言うテーマとは限りません。
もっと正確に言えば「作品のテーマではない」でしょうか。
今回ここで決めたのは、作曲という行為そのものの目的です。
作曲行為そのものの目的とは
少し抽象的で分かりにくいですよね。ですがこれはとても大事だと思っています。
僕は単にテーマ・目的と言っても、
- 曲自体のテーマ・目的
- 作る行為の目的
を分けて考えています。
それぞれ解説しますね。
曲自体のテーマ・目的
まず曲そのもののテーマに関して。
こちらは分かりやすいと思います。
曲のテーマと言えばやはり、
- 何が伝えたいか?
- どう感じて欲しいか?
- 想定するリスナーは誰か?
といった事が挙げられるでしょう。
カッコイイと思わせたい、自分の強い感情をぶちまけたい、共感を呼びたい…
具体例は数えきれませんが、皆さん思い思いのテーマを曲に込める事でしょう。
またFree BGM、即ち何かに使うための素材となるとそこへ、
- どういう場面に向いているか?
- どんな作品を彩れるか?
- (実用時の)作品のテーマ・方向性を邪魔しないか?
といった点も問われてきます。
曲で完結しておらず、他者に何らかの形で使われることで完成しますから。
とはいえどちらにおいても曲のテーマとは、
その作品に定められた目的と言う事に尽きます。
作る行為の目的
一方の作る行為の目的について、
これはこの曲の作曲に於いて自分が何を得たいかと言えます。
こちらは分かりにくいので例えから出しましょう。
国語の漢字の授業を思い出してみてください。
特に小学校などでは新たな漢字を習った時に、
漢字ドリルなどで同じ漢字を繰り返し書かされたりしますよね?
他の教科でも、同じような事を何度も繰り返すシーンが多々あります。
苦痛だったという方も多いでしょうか?
ではそうして生まれた、たくさん書き込まれた漢字ドリルは作品でしょうか?
答えはNOです。
あれって、出来上がった物は作品でもなんでもない、練習の成果ですよね。
作品足りうるものと言えばやはり、作文とかそういったものです。(死ぬほど苦手でした)
何度も同じことをするのは、それによって書き方を自分に染みつけるためです。
つまりそういった反復練習は、その行為自体に意味があります。
DTMに置き換えると、DAWや音源の操作とかでしょうか。
ですがこれだけで作品は生み出せません。作品を作らなければ作品の作り方は分かりません。
作文も作曲も同じで実際に作る事で学び成長していけるわけですが、
その効率が激変するのが何を学ぶために作っているのか?という問いだと思っています。
ここが、漢字の練習やDAWの操作なんかの学習と大きく違う点だと思います。
漢字やDAWの勉強ははとにかく覚え、繰り返すことで勝手に修練されていきます。
しかし作文や作曲は、考えながら生み出されるものであるため、
如何に悩み考え抜くかで成長度は雲泥の差だと考えています。
Azure Expresswayを作る時はどんな雰囲気の何に使えるBGMかという事だけでなく、
これを作る事で僕は何を学びたいか、何が出来るようになりたいかと言う事を強く意識していました。
これこそがこの作曲に於ける最初の手順、
作る目的は何か?を決める作業でした。
Azure Expresswayを作る本当の目的
ではこの曲を作ろうとした目的をご説明します。
一言でいえばそれは幅を広げるという事に尽きます。
ボカロ曲を作ってきた僕にとっては少し異例ではありますが、
インストも好きな僕は以前から「フリーBGMを作りたいな~」とは考えていました。
加えてこれまでの活動で幾つか自分の課題も自覚しつつありました。
列挙すると例えば、
- 細部まで解像度にこだわった強いテーマが無いと作れない
- テーマの表現のため大胆でダイナミックにし過ぎる(ストイックさが無い)
- 音数を盛り過ぎる
- 4つ打ちしか作っていない
- インストオリジナルの作曲経験がほぼ無い
こんなところでしょうか。
これらを改善したいと思った時に、フリーBGMを作りたいという考えが合致しました。
初のフリーBGMに挑戦する上で、今までの自分と違う事をしようとしたわけですが、
一方であまり初めての試みを増やし過ぎるのも問題と考え、
速め・スタイリッシュという自分の得意な要素も残すことにしました。
そんな所から、今回作る曲は以下の要件を満たそうと考えました。
- 疾走感があるスタイリッシュな曲
- 素材利用しやすい無難で主張の少ない曲
- 教材として利用しやすい典型的で最小限の要素しかない曲
①を除き、これまでの僕にない新たな試みです。
これらが曲自体のテーマ・目的となるわけですね。
この曲のテーマと僕の課題を組み合わせ、今回の目標を定めました。
- 初めてのジャンルである「ボーカル無しDNB」で作る
- 敢えて個性を削ぎ落す
- 曲のテーマを定め過ぎずに作る
- 必要最小限のトラック数だけで完結させる
- DAW(Studio One)の付属音源だけで作る
かなり僕の既存のやり方の真逆を取るチャレンジですね。
ではここから、それぞれの目標について解説していきます。
初めてのジャンルである「ボーカル無しDNB」で作る
最初の目標は「ボーカルが無いドラムンベースに挑む」と言う事でした。
要件で言うとこちらでしょうか。
①疾走感があるスタイリッシュな曲
この点に限って言えば、比較的経験もあり好みでもあるため、
割りといつも通りで作りやすそうと言えます。
一方で初のジャンルである事に加えて、ボーカルが無いのも初めてだったため、
今までにない事に挑む良い挑戦になったと思います。
ボーカル無しで作る
まず「ボーカル無し」で作るという事、これ自体はさほど難しくありません。
ボーカルが担当していた主人公的パートを、楽器に任せれば良いだけです。
何なら歌詞やボーカルらしいメロディを考えなくて良いだけ楽になったまでありましたね。
むしろ音楽においてメロディは必ずしも必須ではありません。
0:44から始まるパートを聴いていただくと、これと言ったメインメロディが無い事にお気づきでしょうか?
それまでのキラキラした音がメロディとも言えますが、後から入るピアノに音量で負けていて、
メインと言うほど主張していないと思います。
この曲におけるメインメロディはその後、1:06で入ってくるのを待つことになります。
こういった面でも今までにないことが出来たのはいい経験でした。
DNBを作る
一方で初めてのジャンルであるドラムンベースを作る事、これは苦労した面もありました。
基本的にはDNBのリズムで打ち込めばそれっぽくなりますが、
それはドロップ(所謂サビ)に限った話。
電子音楽においてリズムは確かにジャンル感を大きく決定づけますが、
他にも使う音色などのサウンド面、曲展開での魅せ方・盛り上げ方もかなり影響します。
この点に関しては、後述の条件も踏まえ勉強や思考錯誤を繰り返しながら組み上げました。
と言う事で次の「個性」に行きましょう。こちらは曲展開を決定する指針になりました。
敢えて個性を削ぎ落す
2つ目が「個性を削ぎ落す」こと。
狙った要件はズバリこれです。
②素材利用しやすい無難で主張の少ない曲
ここでは個性を減らした理由と、曲展開を考えるヒントについて解説します。
BGM素材は自己主張しない方が使いやすい
なぜわざと個性を減らすような真似をしたか?
それはフリーBGMとしての実用性を考えるためです。
フリーBGMは明確な用途があるというところから一般的に、
過度に個性を出し過ぎていない事が求められると思います。
あまりに個性的過ぎるとその曲が目立ちすぎるからです。
BG(バックグラウンド=背景)Mになれないということです。
例えば僕の拙作「アナザーランド」を少しお聴きください。
アナザーランド / IWOLI feat.初音ミク
この曲は僕の作品の中でも特にクセの塊だと思っています。
表現したいテーマのためにとにかく個性的で普通じゃない構造を意識しました。
変なイントロ、中途半端な6小節で終わるリフ、急激に音数が減るAメロ、などなど。
最早、情緒不安定なくらいの曲構成をしています。
こういった曲はボカロなど歌単体で成立するコンテンツなら珍しくもありませんが、
これがBGMだったらどうでしょう?
急にテンションが変わり続ける様なのが背後にいては、気が散ってしょうがないですよね?
そのためAzure Expresswayではそんな個性やクセを徹底的に排除する事を優先しました。
変化の少ない曲
個性を無くす最も分かりやすい方法が変化を少なくすることでした。
やはり人間の耳は変化に敏感です。
ジワっと鳴りだした音は「あれ?なんか鳴ってる?」ってなりがちですが、
いきなり「ドンっ」って言われたら、音量が小さめでも気づきますよね?
スマホやインターホンの音がいい例です。
いきなり「ブブブッ」とか鳴っては止まってを繰り返すことで、
人間が嫌でも気づく様になっています。
逆に言えばそういった変化がジワジワと少しずつであれば、ハッとさせる機会も少なく、
BGMとして馴染みやすくなるでしょう。
上記のアナザーランドではただでさえ音ゲーコアめいているのに、
パートごとで度々ジャンル感が変わったり、急に音が止んだりしています。
一方のAzure Expresswayは、連続で何小節も同じようなフレーズやパターンを繰り返すなど、
極力変化を抑えた展開になっています。
これは元々のDNB自体としても基本的で、DNBらしくするコツの1つであると同時に、
この変化の少なさがフリーBGMとして実用性を持たせるポイントになりました。
曲のテーマを定め過ぎずに作る
お次は「テーマを定め過ぎない」というもの。
ここだけ見ると、それまでとは矛盾してるようにも感じますよね。
「作曲行為そのものの目的」というテーマ感があったはずです。
ですが、ここで言うテーマというのは「曲自体のテーマ」です。
この作品は何を表しているのか?何が伝えたいのか?と言った、一般的なテーマのことです。
言い換えるとこのAzure Expresswayは、
今までの自分にない作曲を行うというテーマのため、
これまでしてきた「曲自体のテーマから決める」という手法を捨てた
ということになります。ややこしいですね。
曲のテーマから作らない
上記で記事を紹介したように僕は、
「曲はテーマから考えると、方向性が定まって作りやすい」と言っていました。
しかし、ずっとそれで「アナザーランド」のような強いテーマを持った作品しか作らないというのも、
作者として幅が広がらず芸が無いかもしれないとも思っていました。
その結果、強くこだわったテーマを決めないという方針が、
②素材利用しやすい無難で主張の少ない曲
という要件が望ましい、フリーBGMと合致しました。
フリーBGMはイメージされる情景などはあっても、ある程度多数の人が共感できるような、
普遍性やたくさんの人へ共通しうるテーマが必要だと思います。
そこから判断してAzure Expresswayではシンプルに、
「青っぽい高速道路を駆け抜ける疾走感」程度にだけ考えて作りました。
曲単体で成立させるなら、そこで走り屋たちが非合法なバトルを繰り広げているとか、
大切な人を亡くした人が悲しみの中、車窓を眺めているといったストーリーもアリでしょう。
ですが、汎用性を求め使われる曲を作れるようになりたい、という目的がある以上、
ここまでの解像度や細かさは不要と判断したわけです。
必要最小限のトラック数だけで完結させる
4つ目に挙げたのが「必要最小限のトラック数で作る」というものでした。
求めた要件で言えばまさにこれです。
③教材として利用しやすい典型的で最小限の要素しかない曲
ここはとても単純ですね。音数をボンボン増やすなと言う縛りです。
最初に言った通り、僕は元々音を増やし過ぎる癖が出がちでした。
物足りなさこそが敵であり、色んな音を足せば解決する事がほとんどと思ってきたからです。
ただここにも課題意識がありました。世の中はそんな音数モリモリな曲だけではありません。
DNBもその一種、
音数が滅茶苦茶少なくてもチョーカッコよく成立している曲はたくさんあります。

最終的なトラック数がこちら。マスタートラックを除いて16トラックです。
ドラムが分かれていることもあって少ないとは呼べませんが、
普段40も50もぶち込む僕にしてはかなり抑えた方ではないでしょうか…?
DAW(Studio One)の付属音源だけで作る
最後に課したのがこちら、「付属音源縛り」です。
こちらも4つ目の音数と同様に、
③教材として利用しやすい典型的で最小限の要素しかない曲
にあたると言えそうです。
これに関してはそれまでの、フリーBGMとしてやDNBらしくと言ったことは関係なく、
挑戦とその後で教材に利用する際に都合が良いと考えての制約です。
作曲を教える時に、「この音源をインストールしてください」とか、
ましてや「こちらを購入してください」って言われちゃったらちょっと尻込みしちゃいますよね…
そんな事への配慮もあり、一旦Studio Oneにない所謂サードパーティーを封印しました。
ただ優れたDAWであるStudio One 7を使用したとはいえ、付属音源だけでどうにかできるかは不安でした。
最悪これを作った後で音源縛りを開放して作り直す予定でしたが、
意外と形になったのは自分でも驚きでした。
まとめ
ということで今回は作曲をいざ始める前、
どのような目的でこの曲を作ったのか?ということについて解説しました。
まとめると、Azure Expresswayを作曲する時の目的は、
- 初めてのジャンルである「ボーカル無しDNB」で作る
- 敢えて個性を削ぎ落す
- 曲のテーマを定め過ぎずに作る
- 必要最小限のトラック数だけで完結させる
- DAW(Studio One)の付属音源だけで作る
でした。
ですが一番大切な事は、これら全てが、
今まで自分がしてこなかった事に挑む
と言う点で共通していることです。
曲を作る目的は自由で千差万別です。なんだって良いでしょう。(迷惑さえかけなければ!)
ですがもし、
- 今までの自分に無い物を生み出したい!
- もっと自分を成長させたい!
- 色んなものを作って数字を伸ばしたい!
といった思いがある時は、自分の過去を振り返った上で、
それらと逆の事を取り入れてみるのはいかがでしょうか?
今回はそんな抽象的なお話しでしたが、次回からいよいよ、
どうやってこの曲を作ったか?
という具体的で実践的な内容に入っていきます!
お楽しみに!では、オヤカマッサン!














